消灯時間です

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今日のアドリブ 気ままに書きます

上々颱風

学生の頃、上々颱風にハマり、今はなき情報誌「ぴあ」をバイブルのごとく持ち歩き、コンサート情報をせっせとチェックしては、あちこちのライブ会場を駆けずり回っていた。まだネットのない頃のなつかしい思い出だ。

そもそもの出会いは、このCDアルバムだった。

時代が1990年代に入るか入らないかぐらいの頃だったと思うが、当時、ちまたでは、ジプシーキングスとか、カオマの「ランバダ」とかにはじまる、ワールドミュージックのブームが起きていた。私はその頃高校生で、東北のとある地方都市に住んでいたが、そんな田舎にもブームの波は届いていて、CDショップにも特設的に「ワールドミュージック」のコーナーが設けられていた。その一角に、何気ない態で、この上々颱風のファーストアルバムは鎮座していたのだった。

私は、ピカソ棟方志功を足して2で割ったところに中国趣味もブレンドさせたような、この極彩色の、とても斬新な感じのするジャケットデザインに思わず心をつかまれ、上々颱風とはいったい何者なのか、なんの予備知識もなかったけれど、矢も楯もたまらず、このCDを手に入れた。しかし、当初は、その、思いもよらないあまりに個性的な音楽に度肝を抜かれ、いきなり「ハイ~!」という、金沢明子みたいな、甲高い女性の声による民謡の合いの手から始まったときには、正直「しまったババつかんだよ」とも思ったが、そんな、どんとこい民謡みたいな歌があるかと思えば、ハワイアンみたいな曲もある、今度はダジャレみたいな歌かと思えば、お次は、中国の「草原情歌」のような、美麗で物悲しいメロディの曲が入ってくる、と、とってもヘンなんだけど、聴いてるうちになんだかクセになってくるこのアルバムを、折にふれては棚から取り出し、何とはなしに聞き続けていた。

やがて時は流れ、東京の大学に進学してしばらくたった頃のこと。これまた降って沸いたような偶然だったが、その機会は突然めぐってきた。「上々颱風というバンドのコンサートチケットがあるので、良かったら行ってくれないか」と、友人の親族からのつてで、思いがけなく上々颱風のライブに行けることになったのだ。実は私は、そのときひさびさにその名前を聞くまで、正直、上々颱風のことをすっかり忘れていて、誘ってくれた友人も、名前は知ってるぐらいの程度だと話していた。なにしろ、当時、上々颱風をテレビなどで見かけることはまずなく、受け身のスタンスでいる限り、彼らの情報を知れる機会はほとんどなかったのだ。

かくして、私は期せずして、CDの音でしか知らなかった上々颱風をいきなり生で見れることになったのだが、ライブに行ってみてまあ驚いた。電撃に打たれたような衝撃とはまさにああいうことをいうのかもしれない。衣装はエキゾチックできれいだし、ボーカル担当の美人なおねえさんから繰り出される、まさかのバリバリの東北なまりのMCは話術に長けててめちゃめちゃ面白い。CDではずいぶんへんちくりんに思えた音楽も、いざ生で味わってみれば、底抜けに楽しく、小さい子どもから、何がなんだかワケのわからないまま連れてこられたようなじいちゃんばあちゃんたちまで、手を叩いて喜んでいる。あんなに血沸き肉躍るような気分になれるライブはそれまで見たことがなかった。うまく言えないが、心の奥底に眠っている何かを掘り起こされる思いがした。友人も同様だったらしく、すっかり上々颱風のとりこになってしまった私たちは、それからというもの、足繁く上々颱風のライブに通った。上々颱風は、ライブ会場がユニークなことでも知られていたけれど、なかでも、毎年夏に、東京の新木場の方にある、木材の展示場みたいなところで行われていたライブが印象に残っている。屋台が出たり、ちんどんやさんが練り歩いていたり、故郷の夏祭りみたいで楽しかった。

そんなこんなで、楽しかった学生生活も終わり、社会人になってもしばらくの間はライブに足を運んでいたものの、やがてライフスタイルの変化などで、しだいにその回数も減っていき、そのうち自然と上々颱風を卒業していくみたいなかたちになった。今思えば、熱に浮かされていたようなひとときだったけれど、古い言い方かもしれないが、私にとってあの時間はまさに、青春の1ページともいえる時間だったように思う。ほんの一瞬でも、何か夢中になれるものを持てるということは、とても幸せなことだったのだと、今さらながら感じている。

上々颱風は2013年から、無期限で活動休止しているらしい。だけど、あの芸達者なメンバーの方々はきっと、それぞれにいろいろな場所で、個々に活躍なさっていることだろう。

上野のパンダのシャンシャンの名前を聞くたび、「上々颱風(シャンシャンタイフーン)」を思い出し、思考回路がビビビと反応する今日この頃。私もあれからずいぶん年を重ねてしまったけれど、いつかまた上々颱風が復活する時がきたら、あの年齢制限まるでなしな感じの、誰もが楽しめて元気がもらえるライブに、ひさびさにもういちど出かけてみたいと思う。

 お題「好きなバンド」