消灯時間です

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今日のアドリブ 気ままに書きます

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まつろわぬ民2018@八戸

あっという間に今年もまた年が改まってしまった。
時の流れについてゆくのがやっとなこの頃。
昨年の終盤は美術館めぐりにコンサート、観劇にと、思いがけなくアート三昧な日々を送った。

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12月の初めには演劇集団「風煉ダンス」の音楽劇「まつろわぬ民」を観に、青森県の八戸へ。
いまだステージにもくもくと立ちこめていた演出用のスモークの甘苦い独特なニオイが体にまとわりついているような気がするのだが、もう1か月も前の出来事だとは。

「まつろわぬ民」は、ある一軒のゴミ屋敷を舞台に、古代の東北と現代とが交錯しながら物語が展開していく、ちょっぴり不思議なテイストの音楽劇。「まつろわぬ民」とは「恭順しない民」という意味なのだそう。遠い遠い昔、東北の地を守るため、強大な大和朝廷に果敢に戦いを挑み、そして散っていた蝦夷(エミシ)の人々のことを指す言葉らしい。数年前に見たアテルイ伝のドラマを思い出した。蝦夷の大将である主人公のアテルイ大沢たかおが演じていたが、なかなかのはまり役だった。この人はこの手のやさしく強くそしてはかない男を演らせたらピカイチに思う。

ちなみに朝廷側の宿敵・坂上田村麻呂高嶋政宏が演じていたが、こちらも元来の毛並みの良さが役柄にも存分に生かされている感じでとても良かった。

思わず話が脱線してしまったが、今回見た舞台「まつろわぬ民」にも「鬼の一族」と表して、アテルイたちのような蝦夷の一族を彷彿とさせる人々(?)が登場する。「もののけ姫」の世界っぽくもある。他にも、歴史ドラマなどでたまに目にする幕末の戊辰(会津)戦争での一コマ『会津の彼岸獅子作戦』を思い出させる場面なんかもあった。たしかこの作戦は、悲劇の会津戦争において、会津軍がみごと政府軍の鼻を明かしてやった唯一の痛快な出来事として有名らしいけれど、結局この戦争でも東北勢がこぞって朝敵の汚名を着せられ、薩長率いる政府軍に負けた。物語のあちこちに東北の「敗北」の歴史が散りばめられているのだ。そして忘れてはいけない「東日本大震災」である。

私も東北人だが、言われてみればたしかに東北は昔から負けっぱなしだ。戦という戦に負け、甲子園でもいまだ東北に優勝旗は来ない。おまけにやれ寒いだ暗いだ訛ってるだ「あっちの方」だなどと言われっぱなしに言われがちだが、そんなときでもなかなか「うるせー」とは言い返そうとしないのが我々東北人だ。これまで歩んできた歴史的背景が関係しているのか、はたまた「我慢強い」とか「慎み深い」と言われる気質のせいなのか、東北人はあまり声をあげようとしない。感情を内に込めるようなところがあり、辛くてもつい「大丈夫だ」と言ってしまいがちだ。そうこうしているうちに先の大震災が発生した。巨大津波に加え、原発事故が起きた。東北の受けたダメージは甚大だ。でもやっぱり東北の人は悲鳴をあげないのである。津波でめちゃめちゃになった町を目の前にしながら「大丈夫です。また再建しましょう!」と笑顔で力強く言ったおじいさんの姿はいまだ記憶に新しい。極限状態にありながら取り乱すことなく長蛇の列をつくり、冷静に水や食料の配給を待つ被災地の人々の姿は外国人の度肝を抜いた。たしかに賞賛に値する光景だった。しかし、そんな同郷の人たちの姿を見て、同じ東北人として悔しくはがゆい思いに駆られた人たちがいたのも事実だ。「東北人よ、今こそ叫べ!」「まつろわぬ民」はそんな「東北人の血」をたぎらせた人たちの熱い思いを出発点に生まれた舞台であるらしい。まるで魂の叫びであるかのような作品だ。

八戸出身の作家・木村友祐さんが震災後に発表された小説「イサの氾濫」。すべてはここから始まったとのこと。

こんなふうに書いていると、いかにも重たいテーマのお芝居であるようだが、実際には湿っぽさのようなものはほとんど感じない。上演中には何度も会場が笑いで沸いていた。笑いあり涙あり。いろんなエッセンスがつまっている感じで、宮崎駿アニメとよしもと新喜劇とアングラ劇とスーパー歌舞伎をごちゃまぜにしたような、今まで見たことがないくらいパンチの効いた、痛快大スペクタクル劇だった。大団円のラストは、主演の白崎映美さんの力強い歌声で飾られる。曲はその名も「まづろわぬ民」。白崎さんが「イサの氾濫」に触発され、作った歌とのこと。泥臭くてかっこいい歌だ。

その昔、上々颱風が大好きで足繁くライブに通っていた私は、今回、本当に久しぶりに再び "シャンシャンのエミちゃん" がパワフルに歌い踊る姿を生で拝見することができた。いつかまた生の歌声を聴けたらと漠然と思っていたが、まさかこんなに早く実現するとは思わなかったので、なんだかとても信じられず、まるで夢でも見ているかのような気分で胸がいっぱいだった。終演後は白崎さんの著書にご本人から直接サインと、一緒に記念撮影までしていただきもう感無量。おこがましくも少し言葉も交わしていただいたが、情けないことに緊張しすぎて何を言ったか全然覚えていない・・・。

会場を出た後は、興奮冷めやらぬまま、灯がともり始めた八戸の夜の街へ。
前日からいきなりやってきたという寒波の影響で寒いのなんの。たたでさえ寒いのに。

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八戸の真骨頂は夜。横丁に雑居ビルにお店がひしめきあい呑み助にはたまらない。酒は美味く、食べものもおいしい。人はいささか人見知りなきらいはあるが往々にして温かい。よろしければぜひ一度八戸にお越しください。(そうなの私は八戸人)