消灯時間です

消灯時間です

今日のアドリブ 気ままに書きます

当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

リリイ・シュシュのすべて

新作の公開記念だとかで、岩井俊二監督の映画『リリイ・シュシュのすべて』が、先日まで動画サイトで期間限定配信されていた。一度見てみたいと思いながら、ずるずると鑑賞の機を逸していた作品だ。約二時間半というかなり長い映画だが、せっかくの好機と思い、時間を見つけて観てみることにした。

中学生の心の闇に迫る内容なので、物語のトーンは終始一貫して鬱々と暗い。いじめの描写などショッキングなシーンも多いため、諸手を挙げて人に勧めるのは少々はばかられる類の映画だが、あまり多くが語られない分、見ようによってはいかようにも解釈できるとても興味深い作品だと思った。さしずめ私は、この映画が思春期の悩める子供たちの姿を限りなくリアルに描き出す一方で、どこか怪異の香りのする、ダークファンタジー的な要素も併せ持つ作品であるような印象を受けた。その最たる所以が、この星野(演:忍足修吾)という登場人物の存在である。

星野は、市原隼人演じる主人公・蓮見雄一が、中学入学と同時に最も親しくなる生徒として登場する。スポーツ万能、成績優秀、さらには実家が裕福なうえに母親は若くて美人というおまけのおまけまで付いた、まさに絵に描いたような優等生お坊ちゃまキャラである。しかしこの星野が中一の夏休みが終わったとたん、思わぬ変貌を遂げる。

新学期早々、星野はクラス一の悪童の不遜な言動に激高し、周りがどん引きするほどの圧倒的な暴力でもって彼を制圧してしまう。この一件以来、星野は不良仲間とつるんで暴君のごとく振る舞うようになり、いじめや万引き、はたまた援交の強要など、数々の悪事に手を染める超極悪キャラに変質する。その牙は親友だったはずの主人公・雄一にも向けられ、ある時を境に、雄一は星野から熾烈ないじめを受けるようになる。

さて、星野はどうして突然ここまで変わってしまったのか。それには一つ、夏休みの間に起きた彼の家庭環境の急変が影響しているらしいことが劇中で示唆されるが、それ以上に関係していそうなのが、星野が豹変する直前に雄一らと出かけた夏休みの沖縄旅行である。

中一の夏休み、星野と雄一は、他の友人らとともに沖縄の離島へ旅に出かける。旅の費用は星野が、その場の悪ノリ的なかたちではあったけれども、他人から奪い取ったお金で工面した。つまり彼らは悪銭でもって沖縄へ遊びに出かけてしまうのである。

そのせいとは言わないが、星野たちは旅の序盤から、大沢たかお扮する新手のたかりのような、ちょっと変わった若者に行く先々でつきまとわれて迷惑したり、あげくの果てには、その若者が車にはねられて亡くなる現場に遭遇したりとさまざまなハプニングに見舞われる。星野にいたっては、旅の途中危うく二度も命を落としかける。一度目は危険魚に襲われ、二度目は海で溺れて――。まるで島の”招かれざる客”でもあるかのように。

そんな星野に言い放つ、ツアーガイドのおじさんの言葉が意味深で怖い。


ひょっとして星野は神様を怒らせてしまったのだろうか?
夏休み中に起きたという家庭の異変ももしかしたら・・・
いずれにしてもこの旅行のあと、星野は変質する。

そんなこんなで、楽しいはずの旅行シーンもどこか薄気味悪いし、最初から最後まで胸が詰まるような映画なのだけれども、映像の美しさは一見に値する。

このシーンなんか、まるでおとぎ話の影絵のようだ。

そういえば、雄一の母親役の人、どっかで見たことあると思っていたら、なんとフジテレビの阿部知代アナウンサー(当時)だった。意外と堂に入った演技をしているので驚く。

他にも今や第一線で活躍する女優、俳優の面々が、脇役、端役で多数出演している。


蒼井優ちゃんは脇役ながらかなり重要な役どころ。
高橋一生は、雄一と星野が所属する剣道部の頼れる先輩役として序盤に数シーンの出演。

中央左に前髪クネ男。
左端の役者さんもよくいろんなドラマでお見かけする気がする。皆初々しい。

まあいちばん初々しいのは主役さんだが。

現在の筋骨隆々ガテン系のお姿からはなかなか想像つかないw

「十四歳の、リアル。」
映画公開時のキャッチコピーらしい。

今となっては遠い記憶だが、自分が中学生だった頃を思い返してみるとたしかに、程度の差こそあれ、この映画と似たようなことは実際に私の身の周りでも起きていた。殊に、あちらこちらで勃発するあの年代特有のとっても理不尽で不可解な友人関係のごたごたは、もはや風物詩のようなものでもあった。幸いにして自分は大きな渦に巻き込まれることはなかったけれど、それでも明日は我が身と感じ、子供ながらに毎日をいかに無難に過ごすかに注力し、息をひそめるようにして日々をやり過ごしていたように思う。当時はそれが当たり前ぐらいの感覚に陥っていたが、今にしてみれば非常にやっかいで面倒な時期だった。もちろん楽しい思い出もそれなりに残っているが、戻りたいかといえばけして戻りたくはない。ニンジンぶらさげられたってごめんと思うww この映画で久しぶりにあの頃の独特の閉塞感を思い出し、少し胸がひりひりした。

ひとくち感想:いやー思春期って大変ですわ。

画像出典:岩井俊二映画祭 Iwai Shunji film festival@YouTube

 

dž All About Lily Chou-Chou
監督:岩井俊二 製作年:2001
出演:市原隼人 / 忍足修吾 / 伊藤歩 / 蒼井優 / 大沢たかお