消灯時間です

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今日のアドリブ 気ままに書きます

「カラマーゾフの兄弟(中)」ドストエフスキー ④


「カラマーゾフの兄弟(中)」ドフトエフスキー ③ からのまとめのつづき

【第三部】
第九編 予審

ドミートリイの出発を見届けた後で酒場へ繰り出したペルホーチンは、そこで以前ドミートリイが親父を殺すと公言していたことや、三千ルーブルの話をしていたことを知る。人々は、彼がそんな大金を持っていたというなら、それは父親から奪った金なのではないかと噂し合っていた。いったいドミートリイに何があったのか気になって仕方がないペルホーチンは、事情を探るべく、先ずはグルーシェニカの家を訪ね、女中のフェーニャに話を聞いた。フェーニャによれば、ドミートリイは両手から血をしたたらせた状態で姿を現し、彼女が恐る恐る血まみれのわけをたずねると、彼は「たった今人を殺してきた」と答え、気がふれたように家を飛び出していったのだという。それでフェーニャは、ドミートリイがグルーシェニカを殺しにいくつもりなのではと恐ろしくなり、なんとか阻止せねばと、慌てて彼のあとを追ったということだった。

フェーニャのもとを辞したペルホーチンは、直接フョードルを訪ね、彼の身に何か起きていないか確かめようとも思ったが、万が一何事も起きていなければ、意地の悪いフョードルのことだからかっこうの物笑いの種にされると思い、それが嫌だったペルホーチンは、結局カラマーゾフの家には行かず、次にホフラコワ夫人の家を訪ねることにした。ドミートリイが、大金(三千ルーブル)の出どころはホフラコワ夫人だと話していたので、その真偽を確かめようと思ったのだ。ペルホーチンとホフラコワ夫人はともに面識がなく、夫人は、深夜に突然やってきたこの見知らぬ訪問者をひどく迷惑がったが、取次ぎの者から相手が身なりの整った容姿端麗な若者だと聞かされたとたん一転、面会を承諾した。(このときの二人の出会いは、ペルホーチンにとって後々、とても重要なものになるという趣旨の記述あり)夫人への面会がかなったペルホーチンはさっそく彼女にドミートリイのことをたずねたが、夫人はよほど怖ろしい目にあったのか「危うく殺されかけた」と、ドミートリイという名前を聞いただけで取り乱すほど、かなり興奮した様子を見せた。三千ルーブルの貸与の件も「自分ではない」ときっぱりと否定した。ペルホーチンは警察に相談することにし、警察署長・マカーロフの家へと走る。そこで彼を待ち受けていたのは、フョードルが強盗に遭い、自宅で殺害されたという驚くべき知らせだった。

フョードルの遺体の第一発見者は、グリゴーリイの妻・マルファだった。その夜、スメルジャコフの癲癇の悲鳴に驚き目を覚ましたマルファは、夫が部屋にいないことに気づいて外へとびだし、先ず、庭でうめき声をあげ血まみれになって倒れているグリゴーリイを発見した。さらに、フョードルの部屋の異変に気づいた彼女は、窓の外から部屋の様子を確認しにいったところで、中で血を流して死んでいるフョードルを発見したのだった。マルファは隣家に助けを求め、まずはグリゴーリイを離れに運び込んで介抱にあたった。このときスメルジャコフは癲癇の発作がいっこうにおさまらず、口から泡をふきながら悶絶していたのをマルファたちが見ている。やがて意識が戻ったグリゴーリイが警察に急ぎ通報するよう指示を出し、これを受け、隣家の女性・マリヤが警察署長宅へと走った。事件はこうして明るみに出ることになったのだった。

やがて現場検証が始まった。フョードルは頭をかち割られて死んでおり、グリゴーリイの証言をもとに、庭で凶器と思われる銅の杵も発見された。部屋の中では三千ルーブルの現金が入っていた封筒が破り捨てられているのが見つかり、中身は全て抜き取られていた。ドミートリイの犯行を匂わせる状況が揃いすぎるくらいに揃っていた。さらに、ドミートリイが夜明けまでに自殺する気でいる、というペルホーチンの証言が、警察関係者たちをいっそう奮い立たせることになった。逮捕前に死なれてはかなわないと思った署長たちは、分署の署長などとも連携をとり、予め入念に包囲網を敷いた上で、モークロエに急行。宿屋で宴に興じていたドミートリイの身柄を確保したのだった。

ドミートリイの取り調べが始まった。尋問には検事のイッポリート、予審調査官のネリュードフらがあたった。ドミートリイはグリゴーリイを殴打して大けがを負わせたことや、父親の姿を見て、憎しみのあまり思わず凶器をつかみ出しそうになったことも含め、その夜起こったことをすべてありのままに話したが、「けれどやったのは僕じゃない」と、フョードル殺害に関しては一貫して容疑を否認した。検事たちの最大の関心事はドミートリイが所持していた大金の出どころだったが、ドミートリイは金の話になると、頑なに供述を拒んだ。フョードルの部屋から三千ルーブルの現金が奪われていることから、捜査側はドミートリイの関与をいちばんに疑ったが、ドミートリイはスメルジャコフの仕業にちがいないと主張し、あくまで自らの犯行は否定した。しかし、当のスメルジャコフは度重なる癲癇の発作で重篤な状態が続いており、現場検証に立ち会ったついでに彼を診察した医師が「朝までもつまい」と断言していたこともあってか、検事も予審調査官もスメルジャコフを疑う気配は微塵も見せなかった。

なおも検事たちの厳しい追及を受けたドミートリイは、ついに金の出どころについて口を開き始める。彼は、その金は自分がもともと持っていたもので、1か月前にカテリーナから着服した金の一部だと言い出した。つまり、ドミートリイはカテリーナから着服した三千ルーブルすべてをグルーシェニカとの豪遊に使い果たしてしまったわけではなく、実際には半額の千五百ルーブルを手もとに残していて、しばらくはそれをお守り袋に縫い込み肌身離さず持ち歩いていたのだけれど、このたびついにその封を破り、昨夜のどんちゃん騒ぎに使った、というのだった。しかし、ドミートリイがグルーシェニカとの豪遊に三千ルーブル使ったという話は、町では、もはや知らない者がいないほどの、有名な豪快エピソードになっていた。というのも、ドミートリイ自身が町じゅうでそう言いふらしていたからだった。さらに、昨夜大金を持って現れたときも、彼が「三千ルーブル持ってきた」と言っているのを聞いた人が大勢いた。千五百ルーブルしか使っていないのに、なぜ三千ルーブル使ったなどと言ったのかと尋ねられたドミートリイは「よくわからないが、見栄かもしれない」と言った。

やがて証人たちへの尋問もはじまった。ドミートリイの二度の豪遊ぶりをよく知る宿屋の主人・トリフォンは、彼の最初の豪遊について、どう見ても千五百ルーブル以上は使っているはずだと話し、昨夜のことについては、ドミートリイが宿に着くなり「三千ルーブル持ってきた」と言ったこと、また、宴会の最中にも「ここに六千ルーブル(三千ルーブル×2回)おとしていく」と叫んでいたことなどを証言した。例のポーランド人らも証人として呼び出された。彼らは、ドミートリイに三千ルーブルの取引きを持ちかけられたことを話し、この尋問側とっての新たな証言は、彼らの好奇心をよりいっそう掻き立てることになった。最後はグルーシェニカの番だった。彼女もまた、ひと月前にドミートリイが使った金額は三千ルーブルだったと、自分は数えたわけではないけれど、本人が言っているのを幾度となく耳にした、と証言した。さらに、ドミートリイがここ最近は一カペイカのお金にも困っている様子で、父親からお金をもらうことばかり期待していたこと、かっとなるたびに「父親を殺す」と言っていたが、でも自分は彼がそんなことをする人ではないと信じていたことなどを率直に話した。あらゆることがドミートリイにとって不利な状況にあった。結局彼は、嫌疑を晴らすための証拠を何一つ示すことができないまま、この日、父親殺しの容疑者として逮捕された。トリフォンをはじめ、あれほど友好的にドミートリイに接していた人々は、彼が犯罪者になったとたん、一部の人間をのぞき、みな手のひらを返したように彼に対して冷淡な態度をとった。人々の冷たい視線にさらされながら、ドミートリ―は荷馬車に乗せられ、拘置所へと連行されていった。

口は災いのもとでございます・・・。

(#15「カラマーゾフの兄弟(中)」(ドストエフスキー)finish reading 2018/7/26 )

 

「カラマーゾフの兄弟(中)」ドストエフスキー ③


「カラマーゾフの兄弟(中)」ドフトエフスキー ② からのまとめのつづき

【第三部】
第ハ編 ミーチャ (中途から)

父親の家を飛び出したドミートリイは再びグルーシェニカの家へとやってきた。彼女の家では、使用人たちの間でドミートリイが来ても相手にしないよう申し合わせしてあったが、門番のうっかりミスなどから、グルーシェニカがモークロエに行った事実をいともあっさりドミートリイに知られてしまう。モークロエというのは、かつてドミートリイがカテリーナから着服した3千ルーブルで、グルーシェニカと豪遊に出かけた土地だった。憤慨したドミートリイはさらに詳しい事情を聞くため無理やり家の中に乗りこむと、女中のフェーニャをつかまえ、グルーシェニカがなぜモークロエに行ったのか激しく問い詰めた。これまで頑なに口を守ってきたフェーニャだったが、暴力的に脅されたうえ、なぜか血まみれで現れたドミートリイの姿に恐れおののき、とうとうグルーシェニカが昔の恋人であるポーランド人将校のもとへ行ったことを白状してしまう。その将校というのは、5年前にグルーシェニカを捨てた男だった。ドミートリイもグルーシェニカからその存在を聞かされてはいたが、まさか自分の知らないところで二人が復縁話を進めていたなど夢にも思っていなかった。事情を知ったドミートリイは、部屋に乗り込んできたときの激昂ぶりがうそのように、フェーニャが思わず同情してしまうほど意気消沈した様子で家を出ていく。それはかえって怖いほどだった。

グルーシェニカの家を出たドミートリイは、借金の担保として預けていたピストルを取り戻すため、10ルーブルを借りていた知人のペルホーチンの家へ行く。ペルホーチンは、血まみれで、しかも金に困窮していたはずのドミートリイが2、3千ルーブルはあろうかと思われる札束を握りしめた姿で現れたのでびっくりする。ドミートリイの様子にただならぬものを感じたペルホーチンは、血まみれの理由や、なぜそんな大金を所持しているのかなど様々なことを聞き出そうとしたが、ドミートリイは口から出まかせのような支離滅裂なことを言うばかりでまるで要領を得ない。さらにドミートリイは、これからモークロエの女のところへ行くと言うと近くの店に立ち寄り、ペルホーチンが呆れてしまうほど大量の酒や食料を金に糸目もつけず買い込むと、これも予め自分で手配してあったらしいモークロエ行きの馬車に乗り込んだ。出発の間際、フェーニャがふいに現れ、ドミートリイに、グルーシェニカをどうか殺さないでと懇願する。その様子を見ていたペルホーチンは、一抹の不安を覚え、ドミートリイにピストルを置いていくように言うが、ドミートリイは心配しなくていいと言い、フェーニャに先刻の自分の非礼を詫びると、モークロエへ向け旅立っていった。

モークロエへ向かう馬車の中、ドミートリイは様々な思いの中で葛藤していた。不思議なことに彼ほどの激情家が、新たに登場した恋敵には少しの嫉妬も敵意を感じなかった。彼はグルーシェニカの初恋の人で、彼女は捨てれらたにもかかわらずその男のことを5年の間ずっと想い続けていた。そもそも自分が割って入る余地などなかったのだ。ドミートリイは潔く身を引き、夜が明けたら命を絶とうと思っていた。そのために遺書も準備し、ピストルも装填してあった。いっそのこと夜明けを待たずに今すぐ死んでしまおうかという考えもよぎったが、やはり愛するグルーシェニカを最後に一目でもいいから眺めておきたいという思いの方が勝った。そうこうしているうちに、ドミートリイを乗せた馬車はグルーシェニカが滞在している宿屋に到着した。そこは以前、ドミートリイとグルーシェニカが豪遊した宿だった。

宿に到着したドミートリイはさっそく顔なじみの宿屋の主人・トリフォンに、グルーシェニカの様子をたずねる。グルーシェニカは、例のポーランド人将校を含め、四人の男性と一緒にいるらしかった。ドミートリイはてっきりグルーシェニカが男たちと派手に遊んでいるものと思ったが、トリフォンが言うには、一緒にいるポーランド人というのが実にけちくさい男たちで、豪遊などとんでもないということだった。しかも、グルーシェニカはすっかり落ち込んだ様子だという。ドミートリイはトリフォンに札束をちらつかせ、今夜も派手に騒ぐつもりだから大勢人を呼ぶよう頼むと、グルーシェニカたちのいる部屋へと乗りこんだ。

部屋にいたグルーシェニカは、かつて愛した男が5年見ない間に、垢まみれの服を着た、ケチでイヤミなチビデブ男に変貌を遂げていたことにすっかり幻滅し、げんなりしていたところだった。そこへ札束を抱え、大量の酒や食料を準備したドミートリイがさっそうとやってきたのだ。グルーシェニカはドミートリイの突然の来訪におびえたが、ドミートリイは「最後の夜をここでにぎやかに過ごさせてほしい」と言うと、さっそくシャンパンを運ばせそこに居合わせた人々と酒盛りを始めた。やがて、ポーランド人将校たちと賭けトランプにおよんだドミートリイは、彼らの身なりや立ちふるまいをじっと観察してきたなかでふとあることに気づき、彼らを別部屋に呼び出し、3000ルーブルと引き換えにここから立ち去ってもらえないかと取引きを持ちかけた。将校たちは「3000ルーブル」という金額に一瞬色めきたったが、ドミートリイが全額即金で用意できないことを知ると、唾を吐いて悪態をつくなど態度を豹変させた。その様子を見ていたドミートリイは、今や金に困っている将校が、財産目当てにグルーシェニカに近づいてきたに違いないことを確信する。おまけに彼らがトランプでいかさまをはたらいていたことも発覚した。グルーシェニカの想い人は今や「将校」などではなく、ちんけな詐欺師に成り下がっていた。グルーシェニカは危うく金銭目的の愛のない結婚をさせられるところだったのだ。グルーシェニカは私のこの5年間はいったい何だったのかと嘆き、本当に自分にとって大切な人は誰なのかということにようやく気づいた。

うさんくさいポーランド人たちを追っ払った後、ドミートリイが持ち込んだ大量の酒や食料で大宴会が始まった。音楽隊や通りすがりの村人たちまでもが集まってのどんちゃん騒ぎが続く中、ドミートリイはとうとうグルーシェニカから愛の告白を受ける。こうして全く思いがけないかたちで、ドミートリイの恋はついに成就したのだった。しかし甘く幸せな時間は突然断ち切られてしまう。宴のさなか、警察とその関係者たちがいきなり踏み込んできたのだ。なんとドミートリイに父親殺しの容疑がかかっているというのだった。

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(#15「カラマーゾフの兄弟(中)」(ドストエフスキー)finish reading 2018/7/26 )

「カラマーゾフの兄弟(中)」ドストエフスキー ②


「カラマーゾフの兄弟(中)」ドフトエフスキー ① からのまとめのつづき

【第三部】
第ハ編 ミーチャ

グルーシェニカが昔の恋人とよりを戻そうとしていることなどつゆ知らず、彼女が自分と父親(フョードル)のどちらを選ぶかという問題ばかりに心を囚われていたドミートリイ(愛称:ミーチャ)は、もしグルーシェニカが自分の方を選んでくれたら、彼女を連れて誰も知らない遠い町へ行き、そこで二人で新しい人生を始めたいと考えていた。しかしドミートリイには先立つものがなかった。それにカテリーナにいまだ返せずにいる3千ルーブルの件も彼の良心を苦しめていた。この金はもともと、ドミートリイがカテリーナから送金を頼まれて預かった金だったのだが、ドミートリイはそれに手をつけ、グルーシェニカとの豪遊に使い込んでしまったのだった。ドミートリイは実に欠点の多い人間だったけれども、根は純真で、名誉を重んじる男だった。グルーシェニカと一緒になる前に、何としてもあの3千ルーブルだけはカテリーナに返さねばらならないと決心したドミートリイは、なんとかして金をつくろうとある投資話を思いつく。それは、父親に騙し取られてしまったが本来は自分のものである土地の所有権を3千ルーブルで他人に譲り渡すというものであり、自分に代わってフョ―ドルと裁判で争い、勝ってその所有権を取り戻すことさえしてくれれば、3千ルーブルの元手で確実に3万ルーブルの価値がある土地が手に入れられる、というなんとも苦肉の策的なうさんくさい儲け話だった。

ドミートリイは、さっそくこの話をグルーシェニカのパトロンだった老商・サムソーノフのもとへ持ち込むが、自分では相談に乗れない類の話だと断られ、代わりにその手の争議を得意とするセッターという男に会うよう勧められる。
サムソーノフが親切心から助言してくれたものと思い込んだドミートリイは、時計を売り払ったり知人から借金するなどして旅費をかき集め、馬車を飛ばしてさっそくそのセッターなる人物に会いに出かける。しかし骨折りむなしく、長旅の果てにようやく会えたセッターは終始酩酊していて、まともに話ができる状態ではなかった。あげく暖炉を燃やし過ぎた部屋で一酸化炭素中毒になりかけたり、酔っ払いの介抱をさせられるなど散々な目に遭ったドミートリイは、ようやく自分が老獪なサムソーノフに一杯食わされたことに気づく。

なんの収穫も得られず、ほうほうの体で地元に帰ったドミートリイは、その足でグルーシェニカの家に行く。グルーシェニカはこのとき例の元カレからの使いを待っているところだった。ドミートリイに邪魔されては困るグルーシェニカは、これからサムソーノフのところへ行って夜まで経理仕事をこなさなければならないと嘘をつき、ドミートリイに自分をサムソーノフの家まで送らせ、11時すぎにまたここへ来てほしいとドミートリイに迎えを頼んで彼を安心させる。しかしグルーシェニカがサムソーノフの家に滞在したのはほんの短時間で、その後彼女はこっそり自宅に帰っていたのだった。(このとき、アリョーシャとラキーチンがグルーシェニカ宅を訪問)

そんなことは全く知らず、ドミートリイは、今度は宝物のピストルを担保に知人から10ルーブルを借入れると、まずはスメルジャコフに会いに行こうとするが、実家の隣家の住人から、彼がてんかんの発作で倒れ重篤な状態にあることと、イワンがモスクワに旅立ったことを知らされる。父親の監視役を失って不安に駆られるドミートリイだったが、はたとホフラコワ夫人に借金を申し入れることを思いつき、たいして面識がないうえに、彼女にひどく嫌われていることも自覚しているにもかかわらず、身支度を整えると急ぎ夫人の家へと向かう。

ホフラコワ夫人と面会したドミートリイはさっそく、例の土地の所有権の話を持ち出して彼女に3千ルーブルの借金を頼むが、夫人にのらりくらりとかわされたあげく、お金が必要なら金鉱で事業を起こせば良い、あなたのためにもお金は貸せないときっぱり言い切られてしまう。交渉が不首尾に終わり、いらだちのあまり逆上して夫人の家を飛び出したドミートリイは、あまりの情けなさに泣きながら通りをさまよい歩いていたが、その道すがらで偶然サムソーノフ家の老女中に出会う。ドミートリイは彼女の口から、夜までサムソーノフの家にいるはずのグルーシェニカが、とっくに家に帰ったことを知らされ仰天する。ドミートリイは急いでグルーシェニカの家に駆けつけたが、彼女はすでに元カレの待つ場所へ向け旅立った後だった。ドミートリイは家に残っていた女中たちにグルーシェニカの居場所を教えるようせまるが、彼女たちが頑なに口を割ろうとしないので再び逆上し、ものすごい剣幕で家を飛び出していく。そのとき彼が小さな銅の杵をひっつかんでいったのを女中たちは見逃さなかった。

グルーシェニカの家を後にしたドミートリイは父親の家と向かう。グルーシェニカは親父のところに行ったに違いないと踏んだのだ。こっそり実家の庭に忍び込んだドミートリイは、外からそっと父親の寝室を覗いてみたが、どうにもグルーシェニカがいる気配は感じられない。確信を得るため、ドミートリイはスメルジャコフから聞き出した秘密の合図で窓枠をそっとノックしてみた。すると、グルーシェニカが来たと勘違いしたフョードルが喜び勇んで窓から身を乗り出してきた。これでグルーシェニカが来ていないことははっきりしたが、その時窓から突き出された醜悪な自分の父親の顔を見たとたん、ドミートリイは激しい憎悪の念にかられ、我を忘れてポケットから銅の杵をつかみだしてしまう。

その頃、召使の住まいでは、古参の召使であるグリゴーリイが目を覚ましていた。彼は過日ドミートリイが起こした暴力沙汰に巻き込まれて以来、体調を崩して寝込んでいたのだが、秘薬を使った治療が功を奏し、具合を持ち直していた。ふと庭の木戸の戸締りを忘れていたことを思い出したグリゴーリイは、寝床を出て庭へ向かうが、そこで闇にうごめく怪しい人影を見る。それは今まさに逃走を図らんとしているドミートリイの姿だった。グリゴーリイは必死になってその人影を追い、ようやくひっ捕まえたところでその不審者の正体がドミートリイであることを知るが、その瞬間ドミートリイに殴られ、その場に倒れてしまう。グリゴーリイは頭に傷を負い血まみれだった。とっさにドミートリイは傷の手当を試みたが、とめどなく溢れ出る血に怖れをなし、お手上げ状態になってしまう。グリゴーリイを殺してしまったと思ったドミートリイは、血だらけで倒れているグリゴーリイをそのままに、その場から逃げ出してしまった。

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夏に聴きたい曲【邦楽編】①

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Photo by At the beach photo by Sai Kiran Anagani (@_imkiran) on Unsplash

夏になると聴きたくなる曲を集めてみたら、ほぼ懐メロ特集になってしまいました。
70~90年代、AOR系の曲多め。わいわいがやがや系はあまりありません。
音で今年の猛暑を乗り切りたい!とりあえず30曲です。
AmazonのPrime Music 対象曲は2018年7月現在のものです。

サンシャインロマンス / ORIGINAL LOVE

1993年、オリジナルラブ4作目シングル。
ロディアス+かっこいい。夏のドライブに最適。
連想するもの:太陽、海、ドライブ

サンシャイン ロマンス

サンシャイン ロマンス

  • provided courtesy of iTunes

 Prime Music 対象曲:サンシャイン・ロマンス (Album Version)Amazon

WINDY SUMMER / 杏里

1983年、角松敏生プロデュースアルバム「TIMELY!!」収録曲。
サマーソングの名手・杏里らしい夏の一曲です。
連想するもの:ビーチ、ドライブ、海風

WINDY SUMMER

WINDY SUMMER

  • 杏里
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 Prime Music対象曲:WINDY SUMMERAmazon

愛を描いて - LET'S KISS THE SUN - / 山下達郎

1979年、山下達郎4作目シングル(アルバム「MOONGLOW」収録曲)
JAL沖縄キャンペーン'79イメージソング。海に向かって走り出したくなる感じ。
連想するもの:空、海、太陽

愛を描いて - LET'S KISS THE SUN
山下達郎
収録アルバム:MOONGLOW
Amazon

 

ポラロイドの夏 / 吉川晃司

1984年、アルバム「LA VIE EN ROSE」収録曲。作曲 原田真二、編曲 大村雅朗
センチメンタル+夏の疾走感。かっこいいです。
連想するもの:夕暮れ時の海、夏の終わり、ドライブ

ポラロイドの夏

ポラロイドの夏

  • 吉川晃司
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 Prime Music対象曲:ポラロイドの夏Amazon

夢伝説 / スターダスト・レビュー

1984年、スターダスト・レビュー4作目シングル。カルピスCMソング。
ドラマティックなメロディ展開が印象的です。
連想するもの:ミントブルーの海、空、飛行機

夢伝説

夢伝説

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YES MY LOVE / 矢沢永吉

1982年、矢沢永吉11作目シングル。コカ・コーラCMイメージソング。
けだるい感じがたまりません。
連想するもの:椰子のパラソル、南風、ライトビール、南国系のお酒

YES MY LOVE

YES MY LOVE

  • provided courtesy of iTunes

 

Keep On Loving / 門あさ美

1979年、アルバム「Fascination」収録曲。なんとなくジャズ・サンバ風。
門あさ美さんは今どうしていらっしゃるのでしょう。ミステリアスな方でした。
連想するもの:光る波、サーフィン、指双眼鏡、小林麻美資生堂CM時代の)

Keep On Loving

Keep On Loving

  • provided courtesy of iTunes

 

海 / サザンオールスターズ

1984年、アルバム「人気者で行こう」収録曲。
ジューシイフルーツへの提供曲のセルフカバー。ロマンチック。
連想するもの:夕暮れ時の海、サーフボード積んでる車

海

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Crying In The Sun / 楠瀬誠志郎

1988年、楠瀬誠志郎4作目シングル(アルバム「aisA」収録曲)
茶系飲料CMソング。センチメンタル+清涼感。
連想するもの:青い海、空、サマーベッド、サラリーマンの夏休み、海辺で読書

Crying In The Sun

Crying In The Sun

  • 楠瀬 誠志郎
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

Love song / 具島直子

1996年、アルバム「miss.G」収録曲。透明感とやさしいメロディー。
昔、東芝の企業CMのコマーシャルソングとして使われてました。
連想するもの:夏の午後、開け放した窓、風に揺れるカーテン、うたたね

Love song

Love song

  • 具島直子
  • ポップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

帽子の行方 / THE BOOM

1993年、アルバム「FACELESS MAN」収録曲。
ノスタルジックな一曲です。
連想するもの:静かな浜辺、田舎の夏休み、白ピケ帽、子供時代

帽子の行方

帽子の行方

  • provided courtesy of iTunes

 Prime Music対象曲:帽子の行方Amazon

日付変更線 / 南 佳孝

1978年、南佳孝5作目シングル(アルバム「SOUTH OF BORDER」収録)。
作詞ユーミン、編曲坂本龍一、コーラス大貫妙子とぜいたくな一曲でございます。
連想するもの:ブルーのインクびん、ヘミングウェイの本、海図

日付変更線

日付変更線

  • 南 佳孝 duet with 大貫 妙子
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

シーズン・イン・ザ・サン / TUBE

1986年、TUBE3作目シングル。
清涼感とリゾート感にあふれた名曲。
連想するもの:強い陽射し、プールサイド、水着の美女

シーズン・イン・ザ・サン

シーズン・イン・ザ・サン

  • TUBE
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

カルピスソーダの夏 / あっぷるぱい

2012年、バンド・あっぷるぱいの1stアルバム「あっぷるぱい」収録曲。ちなみにあっぷるぱいは当時「シュガーベイブが演奏しそうな楽曲」をコンセプトに結成された大学生バンドだったとのこと。さわやかです。
連想するもの:ミントブルーの海、白い砂浜

カルピスソーダの夏

カルピスソーダの夏

  • あっぷるぱい
  • J-Pop
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

 Prime Music 対象曲:カルピスソーダの夏Amazon

夏のクラクション / 稲垣潤一

1983年、稲垣潤一5作目シングル。
センチメンタルな夏の名曲。
連想するもの:夕暮れ時の海、伸びる影、夏の終わり、ジントニック

夏のクラクション

夏のクラクション

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9月のHometownから / 杏里

1991年、アルバム「NEUTRAL」収録曲。気温が1,2℃下がりそうな清涼感。
海にも高原にも合いそうな雰囲気です。
連想するもの:海辺の別荘、晩夏、昼下がり、うたたね

9月のHometownから

9月のHometownから

  • 杏里
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 Prime Music 対象曲:9月のHometownから @Amazon

泳ぐ / 今井美樹

1989年、アルバム「MOCHA under a full moon」 収録曲。
浮遊感と透明感があります。
連想するもの:プール、水の中、透明なブルー、熱帯魚

泳ぐ

泳ぐ

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 Prime Music 対象曲:泳ぐAmazon

LIFE / キマグレン

2008年、キマグレン2作目シングル。
体がウキウキとします。
連想するもの:神奈川の海、海の家、サーフパンツ

LIFE

LIFE

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 Prime Music対象曲:LIFEAmazon

ふたりの夏物語  NEVER ENDING SUMMER/ 杉山清貴&オメガトライブ

1985年、 杉山清貴&オメガトライブ5作目シングル。JAL(JALPACK’85)CMソング。なんといっても杉山清貴の透明感のある美声と歌唱力。
連想するもの:ビーチリゾート、バブル時代の夏休み、美男美女

 Prime Music 対象曲:ふたりの夏物語 NEVER ENDING SUMMERAmazon

モンローウォーク / 南 佳孝

1979年、南佳孝6作目シングル。後年、郷ひろみがカバー(「セクシー・ユー」)
センシュアルな大人の夏のイメージ。
連想するもの:南米のビーチ、ビキニ、褐色の美女、コパトーンのにおい

モンロー・ウォーク

モンロー・ウォーク

  • 南 佳孝
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

Summer Beach / 尾崎亜美

1986年、アルバム「POINTS-2」収録曲。岡田有希子への提供曲のセルフカバー。
夏のビーチの情景が目に浮かんでくるようです。
連想するもの:強い陽射し、椰子の木陰、おひるね

Summer Beach

Summer Beach

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 Prime Music 対象曲:Summer BeachAmazon

思い出のビーチクラブ / 稲垣潤一

1987年、稲垣潤一11作目シングル。カナダドライCMソング。
さわやかな歌なのに、いつもソフトスーツで汗だくで歌ってた印象。時代かな?
連想するもの:学生時代の夏休み、ヨット、バブル時代

思い出のビーチクラブ

思い出のビーチクラブ

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MAUI / 杏里

1984年、角松敏生プロデュースアルバム「COOOL」収録曲。杏里が作詞作曲。
この曲でものすごくマウイ島に憧れた。ロマンチックかつヒーリング感があります。
連想するもの:南の島、椰子の木陰、静かなビーチ、海風、おひるね 

MAUI

MAUI

  • 杏里
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小麦色のマーメイド / 松田聖子

1982年、松田聖子10作目シングル。
「林檎酒」なる飲み物の存在と「常夏」ということばをこの曲で知りました。
連想するもの:プールサイド、夏の午後、キールロワイヤル(とかそういうシュワシュワ系のこじゃれたお酒)

小麦色のマーメイド

小麦色のマーメイド

  • 松田 聖子
  • J-Pop
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 Prime Music 対象曲:小麦色のマーメイドAmazon

渚のライオン / 早見 優

1983年、早見優6作目シングル。「夏色のナンシー」も良いですがこの曲もなかなかよかったのでした。健康的な雰囲気。
連想するもの:椰子の木、ローラスケート、ホットパンツの女の子、「一週間に十日来い」

渚のライオン

渚のライオン

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赤道小町ドキッ / 山下久美子

1982年、山下久美子6枚目シングル。’82カネボウ夏キャンペーンCMソング。
ギラギラの灼熱感がこれまた夏らしくていいです。
連想するもの:赤銅色の大地、女ターザン、象(昔「ザ・ベストテン」で跨りながら歌ってた姿が忘れられず)

赤道小町ドキッ

赤道小町ドキッ

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 Prime Music 対象曲:赤道小町ドキッAmazon

真夏の奇蹟 / THE BOOM

1993年、THE BOOM12作目シングル。官能的で猥雑、一方で宗教的な雰囲気もある。 西洋と東洋が融合したようなエキゾチックな一曲です。
連想するもの:東南アジア、バックパッカー、ジプシーのお祭り

真夏の奇蹟

真夏の奇蹟

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 Prime Music 対象曲:真夏の奇蹟 @Amazon

Martiniqueの海風(かぜ) / 今井美樹

1994年、アルバム「A PLACE IN THE SUN」収録曲。作曲は坂本龍一。ボサノバ風。 南への旅情をくすぐられる感じがします。
連想するもの:カリブの島々、バカンス、おひるね

Martiniqueの海風(かぜ)

Martiniqueの海風(かぜ)

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 Prime Music 対象曲:Martiniqueの海風(かぜ)Amazon

TIKI TIKI / Jazztronick feat.Sandii

2002年、Jazztronickによるサンディーとのコラボレーションアルバム「TIKI TIKI」収録曲。「エキゾチカ」というジャンルの音楽の要素を取り入れた楽曲とのこと。体が自然と動き出すようなおしゃれ+かわいい+かっこいい曲です。
連想するもの:ハワイ、熱帯の楽園、ジャングル、トロピカルバード

TIKI TIKI 
Jazztronick feat.Sandii
収録アルバム:TIKI TIKIAmazon

 

夏への扉 / 山下達郎

アルバム「RIDE ON TIME」収録曲。難波弘之への提供曲のセルフカバー。
清涼感+ファンタジック。
連想するもの:空、海、白いドア、クーラーの効いた部屋、おひるね

夏への扉 
山下達郎
収録アルバム:RIDE ON TIMEAmazon

 

「カラマーゾフの兄弟(中)」ドストエフスキー ①

カラマーゾフの兄弟中巻。相変わらずじわじわと地味に登場人物は増え続け、上巻でちょい役だとばかり思っていた人物が、再びひょんなところで登場してきたりもするので全くあなどれない。序盤の90ページにもわたる、ゾシマ長老最後の独白の場面の長さには驚かされたが、ここを過ぎれば、あとはミステリー的な展開が主となり、上巻よりは読みやすいかもしれない。
依然、難しいことはよくわからないのだけど、とりあえず人の本質というのは、どうやら何百年経とうが変わらないものらしいということをつくづく思い知らされながら読んでいる。

またまだ道の途中だけど読んだところまでまとめ

【第二部(続)】
第五編 プロとコントラ(続)

アリョーシャと別れた後、実家に戻ったイワンは、庭先に召使のスメルジャコフがいるのに気づく。このスメルジャコフという男は、もともとリザヴェータという白痴の乞食女がカラマーゾフ家の庭先に忍び込んで産み落とした孤児で、その後、カラマーゾフ家の古参の召使夫婦(グリゴーリイとマルファ)によって育てられたのだが、フョードルが遊びの果てに生ませた子どもなのではないかともっぱらの噂だった。イワンとスメルジャコフは以前はよく話をする仲だったが、イワンは近頃、彼の自分に対する一種独特な馴れ馴れしさがひどく鼻につくようになり、スメルジャコフを嫌うようになっていた。無視して素通りするつもりが、結局スメルジャコフにつかまってしまったイワンは、彼から自分がフョードルとドミートリイの間に立たされえらく苦労しているというような愚痴めいた話を聞かされる。フョードルは、いつやってくるとも知れないグルーシェニカの来訪を心待ちにする一方でドミートリイの来襲に怯え、自室に鍵をかけて閉じこもるなどひどく用心深くなっているようだった。召使すらも容易に近づけようとしない警戒ぶりらしいが、グルーシェニカが来たときだけは秘密の合図で知らせることになっているらしい。しかしドミートリイに脅され、スメルジャコフは、自分とフョードルしか知らないその秘密の合図をついドミートリイに漏らしてしまった、と言うのだった。また、スメルジャコフは、これからモスクワに発とうしているイワンに対し、なぜかしきりにチェルマーシニャ(フョードルがドミートリイと土地の利権問題で争っている土地)へ行くことをすすめる。さらに、その留守中に何か家で重大な事でも起こりかねないようなことをほのめかすので、その言動がイワンをますます不快にさせた。
チェルマーシニャへ行くつもりなどさらさらなかったイワンだが、土地問題の解決を任せたいと父親からもしつこくせがまれたため、しかたなくチェルマーシニャ行きを請け負うことにする。しかし出発の朝、見送りに出てきたスメルジャコフが自分に対して発したある言葉がひどく胸にひっかかったイワンは、道中、急遽チェルマーシニャ行きをキャンセルし、そのまま真っすぐモスクワへと向かった。そうとうも知らないフョードルは、自宅で満足感に浸りながら、グルーシェニカの来訪を今か今かと待ち受けていた。スメルジャコフから「必ずいらっしゃる」という確約にも近い言葉を受けたからだった。

第六編 ロシアの修道僧

アリョーシャが急ぎ修道院に戻ると、ゾシマ長老の容態は一時的に持ち直していた。しかし敬愛する師の最期の時は確実にせまっていた。ゾシマ長老は部屋に集まった客人たちを前に、自身の身の上話も含めた最後の説話を披露すると、その晩のうちに息をひきとった。

【第三部】
第七編 アリョーシャ

人々に愛された偉大な聖者であるゾシマ長老が亡くなり、誰もがその死後に起こる奇跡を期待した。彼ほどの人物なら、病を癒すなどの奇跡が起こるに違いないと皆が思ったのだ。しかし奇跡が起こるどころか長老の遺体は死後一日も経たないうちに腐敗し始め、臭いを放つようになる。かつてこの世を去った長老の中には、その遺体から腐臭ではなく芳香が漂った者もいたという逸話もささやかれる中、ゾシマ長老の遺体に起こったまさかの忌々しい現実に、修道院だけでなく街中の人々が動揺する。日頃からゾシマ長老の人気に嫉妬していた反ゾシマ派の僧侶たちは、鬼の首を取ったように故人を攻撃し、今まで長老を慕っていたはずの信者や民衆までもがその騒ぎに便乗した。人が人をいとも簡単に裏切る光景を目の当たりにしたアリョーシャは、敬愛するゾシマ長老が奇跡を起こせなかったというショックもてつだい、自らの信仰心をぐらつかせてしまう。悲しみと混乱に陥り、半ば自暴自棄の状態にあったアリョーシャは、同僚のラキーチンの誘いに乗り、グルーシェニカの家に行く。実は性悪なラキーチンにはグルーシェニカにアリョーシャを誘惑させ、真面目な彼を堕落させようとする魂胆があった。アリョーシャたちを家に招き入れたグルーシェニカは、事前にラキーチンと示し合わせていたとおり、さっそくアリョーシャを性的に誘惑してかかるが、彼の口からゾシマ長老の死を聞かされるやいなや、敬虔に十字を切り、不謹慎なことをしてしまったとアリョーシャに自らの非礼を詫びる。悪女だとばかり思っていたグルーシェニカのこの言動は、アリョーシャをとても驚かせた。今でこそ男たちを翻弄する魔性の女として名を馳せるグルーシェニカだが、かつては内気な少女であり、愛した男に騙され捨てられ、その後老商(サムソーノフ)の愛妾として囲われたことで経済的に恵まれた今の生活を築くことになるも、一時は孤独と貧困にあえいでいたこともあるという、悲しい過去を持つ憐れむべき女性であったのだった。二人は心を開いて対話するうちに互いに人として魂の部分で共鳴しあい、アリョーシャは彼女のおかげで再び信仰心を取り戻す。
この日、実はグルーシェニカはある知らせを待っていた。どうやら彼女はかつて自分を捨てた元恋人のポーランド人将校から復縁を迫られているらしかった。グルーシェニカは知らせが来次第、すぐにでも彼のもとへ飛んでいくつもりになっており、そのためにドミートリイからよからぬ干渉を受けぬよう、彼に嘘をつき、しばしの間身を隠しているようだった。やがて、アリョーシャたちの訪問中に元恋人からの迎えの馬車が差し向けられてくる。別れ際、グルーシェニカはアリョーシャに「ドミートリイのことがほんのひと時だけ、一生忘れないでいてほしいほど本気で好きだった。そのことを彼に伝えてほしい」と言った。
自らのもくろみがみごと不首尾に終わって憤慨するラキーチンと道の途中で別れたアリョーシャは、一人修道院に戻ると一心不乱に祈り続けた。やがて疲労から祈りながらつい寝入ってしまったアリョーシャは、そのまどろみの中でゾシマ長老の幻に会い、言葉を交わす。このときの神秘的な体験は、アリョーシャの人生を一変させるほどのものになった。彼はもうかよわい青年ではなかった。一生変わらぬ堅固な闘士であった。
三日後、アリョーシャは修道院を去った。それは「自分の死後は俗世に戻るように」と言っていたゾシマ長老の生前の言葉にかなうものだった。(つづく)

(#15「カラマーゾフの兄弟(中)」(ドストエフスキー)reading in progress )

ほぼ東海道を歩く旅⑧【箱根湯本~芦ノ湖】

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予想外に早い梅雨明けを迎え、今年もきらめくような夏がやってくると一瞬錯覚した7月某日。いよいよ箱根歩きに挑戦することになった。今回はめずらしく数日前に決行の予告をしてくれた夫。心の準備は万端です。ただ靴がちょっと心配・・・。

 
旅人:俺様(夫)
同行&記録係:私

 

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1泊2日の旅程で箱根湯本~三島間を歩くなどいろいろ考えたが、結局、日帰りで芦ノ湖まで歩くことになった。今回は車で箱根に向かったので、箱根湯本駅付近に車を置いて歩き、無事芦ノ湖にたどり着いた暁には、路線バスでふもとまで戻ってくるという計画です。というわけで10時45分、箱根湯本の商店街付近を出発。車の駐車場所の関係で、しばらく東海道ではない場所を歩きます。
暑い、それにしても暑い・・・。気温は早くも30℃越え、着替えを詰めたリュックを背負い帽子に日焼け止めと完全防備の私に対し、相変わらずちょっとそこのコンビニまでみたいなラフなスタイルの俺様。さすが新婚旅行も手ぶらで行った男である。必要なものはすべておしりの四次元ポケットにおさまっているらしい。

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途中、強烈な夫婦喧嘩を展開する家族旅行中らしきファミリーに遭遇し、「夏休みだねぇ…」と妙なところで改めて夏の訪れを実感する俺様と私。しばし水辺の旅館街を歩く。ジリジリと陽射しが照りつけるけれど、気持ちがいい。

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出発地点から20分ぐらい歩いたところで、ようやく旧東海道(県道732号線)に合流。
このまましばらく車道を歩く。歩道がないので緊張するが、車の往来が意外と少ないので、歩きづらさはそれほど感じなかった。ただ、たまにくる車が気持ちよさげにけっこうとばしてくるので、用心にこしたことはないという感じである。

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なんの変哲もない山道だが、突然現れる横浜・中華街の関帝廟のような超ビビッドなお寺さん(神社?)に目を奪われたり、途中で通過する小さな集落(須雲川集落)にほっこりしているうちに、午前11時30分、森の中へと続く自然道(須雲川自然探勝歩道)の入口前に出た。東海道からはそれることになるようだが、無類のネイチャー好きの俺様たっての希望で、以降は森の道を進むことに。ちなみにこの自然道の入口手前にはこぎれいなトイレが設置されている。万全を期してハイキングにのぞめるようになってます。

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自然道に入ると、ふるさとの森に帰ってきたかのごとく緑の中を自在に突き進む俺様。
橋を渡り

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丸太の飛び石を越え

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そして、あぶないおじさんと化す。あまりの暑さに耐えかねたらしい。
男という生き物がつくづくうらやましい瞬間でもある。

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少々こころもとない丸太橋(意外と怖い)が続くポイントも、軽い足取りでなんなく通過していく俺様。まるで森の住人のごとく山の中を自由自在に動き回る姿にたまらず「〇〇さーん、戦争は終わりましたー」と声をかけてみたら、きょとんとした顔して振り向いた。つい夫で遊んでしまった。

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ちなみにこの丸太橋が続くポイントは小さな滝がある(須雲川の堰堤だそうです)開けた水辺になっていて、ひとときの清涼が味わえる。この辺りは水力発電所なんだそうです。

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さて、須雲川を渡り切ったところでいったん県道に出るかたちになったが、またすぐに自然道の入口が現れた。そしていよいよ、江戸時代の石畳が満を持しての登場である。

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なかなか風情がある。脱藩浪士になった気分だわ。ただ、ゴツゴツしているのでちょっと歩きにくい。

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程なくして石畳の道が終わり再び車道に出たが、道路を横断したところにすぐにまた山の中へ入る道が現れる。基本、この繰り返しである。そしてここからは旧街道になるようだ。

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あぶないおじさんリターンズ。
さっきの石畳ではあまり感じなかったが、旧街道に入ったとたん苔むした石畳が続くようになり、とにかくつるつる滑っておそろしい。転ばないように一歩一歩慎重に歩く。

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しかも勾配のきつい坂が延々と続く。大澤坂という坂らしい。暑さと、転ばないようにという緊張と、坂道を登る疲労のトリプルパンチで一気に体力が奪われていく。今回のルートの中でも指折りの難所といえましょう。

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緊張の大澤坂を登り切ると、そこは畑宿の町だった。正午、畑宿本陣前を通過。

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くねくね道に軽くめまい。あとまだ半分あるわね。

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寄木細工のお店の前でひと休み。本日2本目のスポーツドリンクで水分を補給する。

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10分ほど休憩して再び道へ。しかし、さっきの寄木細工のお店の奥に旧街道らしき道があったのに、なぜかそっちには向かわず反対側の車道を歩きだした俺様。

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が、ほどなく現れた旧街道の道へ入っていったので、再びつるつるの石畳を必死の思いでついていくも、なんと街道を抜けた先はさっき休憩をとった寄木細工の店の前だった。いやーん。間違えたのかよ。どうりでなんでここだけ下り坂なんだろうと思ったんだよ。
というわけで、再びもと来た道を引き返し・・・

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なんとか軌道修正して、12時30分、いよいよくねくねの「七曲り」に出た。
ここからがほんときつかったっす。

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あいかわらず、つるつる滑りまくる石畳(しかも私は石畳の間に足をはさんでしまい、しばらく抜けなくなってあせる)

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サルでも滑るらしい坂

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たたみかけるように現れる急階段・・・と、とうとう乳酸との戦いに屈した私は、ついにここで足がとまってしまいました。やはり階段がいちばん堪えます。

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休み休み歩を進めて13時10分すぎ、ついに待望の甘酒茶屋さんへ到着。
砂漠の中でオアシスにたどりついたような気持ちだった。

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控えめな照明といい、メニューのラインナップといい、その味加減といい、歩き疲れた旅人にとっては何から何までかゆいところに手が届くかんじのお店である。さすが何百年もの間、長旅に疲れた旅人を癒し続けてきたお店でいらっしゃる。甘酒が名物のようだが、私はなんだかどうしてもバチっと苦みの効いたものが欲しくて、冷たいお抹茶と、それから黒ごまきなこもちを一皿、俺様と分け合っていただいた。あと、ポットに入った温かい薬草茶がテーブルごとに置かれていて自由に飲めるようになっている。このお茶がまた良い。一気に疲れがとれていく感じだ。

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さて、疲労もすっかり回復。人のからだがいかに食べものでできているかということを身をもって実感したところで、13時45分、再び道へと戻る。
芦ノ湖までもうひとふんばりです。がんばる。

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13時50分、再び旧街道の入口。この先にはしばらく道幅の広い石畳の道が続いていた。
(一番上の画像の場所がそうです)ちょっとだけ旧街道の雰囲気が味わいたい人はこの道を歩くのが良いかも。

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それにしてもここに至るまで、同じメーカーのウォーキングシューズを履いているにもかかわらず、石畳に足をとられる様子など微塵も見せなかった俺様。すべる、あげくはさまる、のどんくさい私とはえらい違いである。「俺と同じところをついてきて!そうすれば滑らないから」と言うが、ぽんぽんぽんぽん飛ぶように石畳の道を進んでいくのであまりの速さについていけない。アンタは少年ケニヤかいな。まあ少年という年でもないからおっさんケニヤだな。

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そうこうしているうちに石畳の道が終わった。ここまで来れば芦ノ湖はもうすぐ先。
こちらはケンベルさんとバーニーさんという、箱根の美しさを世界に紹介した海外の方々を称えた記念碑らしいです。

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そして14時25分。ついに芦ノ湖に到着。ぴーかんのお天気だったのになぜか湖の周辺だけは曇っていて、残念ながら富士山は見えなかった。土産物屋をひやかしたりしながら30分ほど休憩して、箱根神社入口のバス停から箱根登山バスで箱根湯本へ戻りました。お疲れさまでした。

ハードな道のりだったが充実感と達成感があった。緑の中でマイナスイオンをいっぱい浴びたせいか、不思議と疲れが後を引かず、かえって体が爽快だった。山歩きに魅せられる人の気持ちが少しわかりました。

さて、当初「沼津まで行きたい」とはりきっていた俺様だったが、どうやら心変わりがあったようで、我々のほぼ東海道を歩く旅も今回が最終回となりそうだ。心はもうどこかまた別な場所へ飛んでいるらしい。思いおこせば今年2月から歩きはじめ、計8回で約106キロに渡る徒歩旅となりました。よく考えたら箱根駅伝はこの距離を5時間半とかで駆け抜けていくわけだからやっぱり超人的なスポーツだね。良い体験になりました。

【今回の旅のメモ】
〇ルート:箱根湯本(神奈川)~芦ノ湖(神奈川)
〇実施日:2018年7月初旬(天気:晴 気温31℃)
〇歩行距離:約10キロ 
〇所用時間:約3時間40分(休憩含む)
〇HP消耗度:★★★★★(初めて自分で自分をほめたいと思います by 有森裕子です級)
〇使ったお金:3,000円/人ぐらい(飲食代+交通費+その他)

〇感じたこと:さすが天下の険というだけあってハードな道のりになりますが、緑の中を歩くのは気分が良かったです。最大の敵はなんといっても滑る石畳。普通のウォーキングシューズでも歩けないことはないですが、防滑仕様のシューズがあると心強いでしょう。

〇きょうの教訓:「トレッキングシューズ買っとこ」

不穏な夏

予想以上に早く梅雨が明け、いよいよ今年もきらめく夏のはじまりかと思ったとたん、このところの天候がおかしい。梅雨明け早々台風が襲来し、我が家がある地域でも数日間突風にさらされる日が続いた。そんなことより心配なのが西日本を襲っている未曽有の大豪雨だ。思いもよらない不穏な夏の幕明けである。そんな嵐の日々のさなかに突如駆け巡ったオウム事件死刑囚7名の同時刑執行のニュースは、当時の一連の事件を知る世代の一人としてはなかなか衝撃的なものがあった。世の中を震撼させたあの地下鉄サリン事件からもう気づいたら23年・・・。サリン事件というと思い出すことがある。

二十数年前といえば、そのころ私は東京に住んでいたのだが、ある日、都内の某巨大ターミナル駅で電車に乗ろうと券売機で切符を買っていたときのこと。突然、のどに、きゅっと、なにか異物が入りこむような感覚をおぼえた。それまで感じたことのないような違和感だった。あれっ?と思ったとたん、今度は咳込んだ。それは決して深い咳ではなく、どちらかといえばコンコンと浅い咳だったのだが、なぜかその咳が全く止まらなくなってしまった。いったいどうしたものかと咳込みながら全くコントロールの効かない自分に驚いていたのだが、さらに驚くことが起こった。私の目の前を行き交うおびただしい数の人々が、みな一様に咳込みはじめたのだ。ちょうど会社帰りの人たちで混みあうような時間帯だったので、OL風の女性やスーツ姿の男性たちが咳込みながら足早に行き交っていたのを今でも覚えている。ちょっと異様な光景だった。何かそのへん一帯に目に見えないぐらい細かい粉塵でも舞っていたのか、はたまた空気が汚れていたのか、それにしてもニオイなどがしているわけでもなかったし、原因は全くわからない。まもなくして咳はおさまり、無事電車にも乗れたが、その後もしばらくのどのいがらっぽさがとれなかった。いつのことだったか正確には覚えていない。ただ、それからあまり遠くない時期にあの地下鉄サリン事件が起こったように記憶している。今でも、あの駅での出来事は何だったのだろうと思うが、当時サリン事件が起こったとき、犯行グループがそれ以前にも、大規模な駅などで薬品を噴霧する実験を繰り返していた、などという話も聞こえてきたので、もしや?とゾッとしたものだった。

私の場合は単なる偶然の出来事だったかもしれないが、実際に、危うくサリン事件の難を逃れたという方々から直に話を聞いたこともあった。いずれもいつもなら事件が起きた電車(車両まで同じ)に乗っていたはずなのに、出がけにストッキングがやぶれて家に戻った、その日に限って前日からの仕事の都合で車で出勤することになった、と何らかの不測の事態が起きて事件を免れた方々だった。特に、その日車出勤となり難を逃れたという方は、これまたその日に限って(事件の影響もあったのかもしれないが)道路がひどく混んでおり、結局仕事に遅刻して、その車というのかまた社用車だったので、その配車の責任者にこっぴどくしぼられたというオチつきだったが、それでもそれが新婚数ヶ月目の出来事だったというから、上司からの大目玉は実にお気の毒だったけれども、この九死に一生劇は、何かの身代わりだったというか、大難が小難ですんだものと思わずにはいられない。


先日、刑執行を報じるワイドショーを見ていたら、あの23年前の教祖の逮捕劇を振り返っている方がいた。あの日建物内で逮捕された教祖が外に連れ出されてくるのを、かなりの数の報道陣が今かとシャッターチャンスを狙って待ち受けていたらしい。それなのに突然その時だけの濃い霧が立ち込め、前方のいっさいの視界を遮られて、誰も車に乗り込むまでの教祖の姿を撮れた人はいなかったのだそうだ。言われてみれば、たしかに車に乗りこんでからの写真は見たことがあるが、外を連行されている写真は見たことがない。なにか特殊な力があったとは思いたくもないが、そんな話を聞いたら、このところの悪天候も何か関係があるのかなと少し胸がざわついた。

そういえば小学生の頃、もうかなり古い話だが、洞爺丸事故の難を奇跡的に逃れたというおばあちゃん先生もいた。その先生は遭難した洞爺丸にお母さんと乗るはずだったのに、お母さんが身に着けていくはずだった気に入りの帯留めがなぜかその日に限って見当たらず、船に遅れるからもう別の帯留めでもいいじゃありませんかと先生は言ったらしいのだが、穏やかなお母さんがめずらしくあの帯留めじゃなくてはだめだと強情を張り、結局帯留めを探している間に船に乗り遅れ、遭難を免れたらしい。今の皇太子のご成婚パレードの時も不思議だった。あのとき私は皇居前にパレードを見に行ったのだが、それまで降っていた雨が、パレードの直前になって突然晴れ上がった。良くも悪くも目に見えないことってやっぱりあるんだろうか。いつもはのほほんと迎えていた夏が今年は何か違う感じがする。そんな気になった今年の夏の幕明けだった。