「どくとるマンボウ青春記」北 杜夫
どくとるマンボウこと北杜夫氏の青春時代の回想記。
東京の私立中を卒業する頃から、親元を離れての信州松本での高校生活、そして東北仙台で送った医大生時代のことまでが書いてある。
以前うひゃうひゃ笑いながら読んだ「どくとるマンボウ航海記」に負けず劣らずおもしろかったが、多感な時期の記録にふさわしく、ユーモア満載な反面、いかにも悩める若者といった感じのシリアスな心理描写も目立つ。
お父上の斎藤茂吉とのエピソードも頻繁に語られる。日本文学史に燦然と輝く詩人・斎藤茂吉も、息子からしてみれば相当手強い、ゴリゴリの教育パパだったようだ。ある意味無類の子煩悩だったとも言えそうだけれど、そんなおっかない茂吉パパの目の届かぬ遠い地で、アクの強い教師陣や学友らとともにはちゃめちゃに青春を謳歌する旧制松本高校時代のエピソードがやっぱり面白い。一転して後半の大学生活は相変わらずユーモラスながらもどこか憂いを帯びたトーンに変わっていく。
そういえばこの本、父上の茂吉さんは頻繁に登場するのに、どういうわけか”お母さん”がほとんど出てこない。”母”という字を一、二度見たかどうか・・・。男の人にしては母親についての言及があまりないというのもなんだか珍しいと思い、調べてみたらマンボウ先生のお母さんという人は「えええ」と思わず舌を巻いてしまうほどかなりぶっ飛んでる人だったらしいことがわかった。母上については別途くわしく書かれた本が出ているようなので今度読んでみようと思う。