消灯時間です

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「カラマーゾフの兄弟(中)」ドストエフスキー ④


「カラマーゾフの兄弟(中)」ドストエフスキー ③ からのまとめのつづき

【第三部】
第九編 予審

ドミートリイの出発を見届けた後で酒場へ繰り出したペルホーチンは、そこで以前ドミートリイが親父を殺すと公言していたことや、三千ルーブルの話をしていたことを知る。人々は、彼がそんな大金を持っていたというなら、それは父親から奪った金なのではないかと噂し合っていた。いったいドミートリイに何があったのか気になって仕方がないペルホーチンは、事情を探るべく、先ずはグルーシェニカの家を訪ね、女中のフェーニャに話を聞いた。フェーニャによれば、ドミートリイは両手から血をしたたらせた状態で姿を現し、彼女が恐る恐る血まみれのわけをたずねると、彼は「たった今人を殺してきた」と答え、気がふれたように家を飛び出していったのだという。それでフェーニャは、ドミートリイがグルーシェニカを殺しにいくつもりなのではと恐ろしくなり、なんとか阻止せねばと、慌てて彼のあとを追ったということだった。

フェーニャのもとを辞したペルホーチンは、直接フョードルを訪ね、彼の身に何か起きていないか確かめようとも思ったが、万が一何事も起きていなければ、意地の悪いフョードルのことだからかっこうの物笑いの種にされると思い、それが嫌だったペルホーチンは、結局カラマーゾフの家には行かず、次にホフラコワ夫人の家を訪ねることにした。ドミートリイが、大金(三千ルーブル)の出どころはホフラコワ夫人だと話していたので、その真偽を確かめようと思ったのだ。ペルホーチンとホフラコワ夫人はともに面識がなく、夫人は、深夜に突然やってきたこの見知らぬ訪問者をひどく迷惑がったが、取次ぎの者から相手が身なりの整った容姿端麗な若者だと聞かされたとたん一転、面会を承諾した。(このときの二人の出会いは、ペルホーチンにとって後々、とても重要なものになるという趣旨の記述あり)夫人への面会がかなったペルホーチンはさっそく彼女にドミートリイのことをたずねたが、夫人はよほど怖ろしい目にあったのか「危うく殺されかけた」と、ドミートリイという名前を聞いただけで取り乱すほど、かなり興奮した様子を見せた。三千ルーブルの貸与の件も「自分ではない」ときっぱりと否定した。ペルホーチンは警察に相談することにし、警察署長・マカーロフの家へと走る。そこで彼を待ち受けていたのは、フョードルが強盗に遭い、自宅で殺害されたという驚くべき知らせだった。

フョードルの遺体の第一発見者は、グリゴーリイの妻・マルファだった。その夜、スメルジャコフの癲癇の悲鳴に驚き目を覚ましたマルファは、夫が部屋にいないことに気づいて外へとびだし、先ず、庭でうめき声をあげ血まみれになって倒れているグリゴーリイを発見した。さらに、フョードルの部屋の異変に気づいた彼女は、窓の外から部屋の様子を確認しにいったところで、中で血を流して死んでいるフョードルを発見したのだった。マルファは隣家に助けを求め、まずはグリゴーリイを離れに運び込んで介抱にあたった。このときスメルジャコフは癲癇の発作がいっこうにおさまらず、口から泡をふきながら悶絶していたのをマルファたちが見ている。やがて意識が戻ったグリゴーリイが警察に急ぎ通報するよう指示を出し、これを受け、隣家の女性・マリヤが警察署長宅へと走った。事件はこうして明るみに出ることになったのだった。

やがて現場検証が始まった。フョードルは頭をかち割られて死んでおり、グリゴーリイの証言をもとに、庭で凶器と思われる銅の杵も発見された。部屋の中では三千ルーブルの現金が入っていた封筒が破り捨てられているのが見つかり、中身は全て抜き取られていた。ドミートリイの犯行を匂わせる状況が揃いすぎるくらいに揃っていた。さらに、ドミートリイが夜明けまでに自殺する気でいる、というペルホーチンの証言が、警察関係者たちをいっそう奮い立たせることになった。逮捕前に死なれてはかなわないと思った署長たちは、分署の署長などとも連携をとり、予め入念に包囲網を敷いた上で、モークロエに急行。宿屋で宴に興じていたドミートリイの身柄を確保したのだった。

ドミートリイの取り調べが始まった。尋問には検事のイッポリート、予審調査官のネリュードフらがあたった。ドミートリイはグリゴーリイを殴打して大けがを負わせたことや、父親の姿を見て、憎しみのあまり思わず凶器をつかみ出しそうになったことも含め、その夜起こったことをすべてありのままに話したが、「けれどやったのは僕じゃない」と、フョードル殺害に関しては一貫して容疑を否認した。検事たちの最大の関心事はドミートリイが所持していた大金の出どころだったが、ドミートリイは金の話になると、頑なに供述を拒んだ。フョードルの部屋から三千ルーブルの現金が奪われていることから、捜査側はドミートリイの関与をいちばんに疑ったが、ドミートリイはスメルジャコフの仕業にちがいないと主張し、あくまで自らの犯行は否定した。しかし、当のスメルジャコフは度重なる癲癇の発作で重篤な状態が続いており、現場検証に立ち会ったついでに彼を診察した医師が「朝までもつまい」と断言していたこともあってか、検事も予審調査官もスメルジャコフを疑う気配は微塵も見せなかった。

なおも検事たちの厳しい追及を受けたドミートリイは、ついに金の出どころについて口を開き始める。彼は、その金は自分がもともと持っていたもので、1か月前にカテリーナから着服した金の一部だと言い出した。つまり、ドミートリイはカテリーナから着服した三千ルーブルすべてをグルーシェニカとの豪遊に使い果たしてしまったわけではなく、実際には半額の千五百ルーブルを手もとに残していて、しばらくはそれをお守り袋に縫い込み肌身離さず持ち歩いていたのだけれど、このたびついにその封を破り、昨夜のどんちゃん騒ぎに使った、というのだった。しかし、ドミートリイがグルーシェニカとの豪遊に三千ルーブル使ったという話は、町では、もはや知らない者がいないほどの、有名な豪快エピソードになっていた。というのも、ドミートリイ自身が町じゅうでそう言いふらしていたからだった。さらに、昨夜大金を持って現れたときも、彼が「三千ルーブル持ってきた」と言っているのを聞いた人が大勢いた。千五百ルーブルしか使っていないのに、なぜ三千ルーブル使ったなどと言ったのかと尋ねられたドミートリイは「よくわからないが、見栄かもしれない」と言った。

やがて証人たちへの尋問もはじまった。ドミートリイの二度の豪遊ぶりをよく知る宿屋の主人・トリフォンは、彼の最初の豪遊について、どう見ても千五百ルーブル以上は使っているはずだと話し、昨夜のことについては、ドミートリイが宿に着くなり「三千ルーブル持ってきた」と言ったこと、また、宴会の最中にも「ここに六千ルーブル(三千ルーブル×2回)おとしていく」と叫んでいたことなどを証言した。例のポーランド人らも証人として呼び出された。彼らは、ドミートリイに三千ルーブルの取引きを持ちかけられたことを話し、この尋問側とっての新たな証言は、彼らの好奇心をよりいっそう掻き立てることになった。最後はグルーシェニカの番だった。彼女もまた、ひと月前にドミートリイが使った金額は三千ルーブルだったと、自分は数えたわけではないけれど、本人が言っているのを幾度となく耳にした、と証言した。さらに、ドミートリイがここ最近は一カペイカのお金にも困っている様子で、父親からお金をもらうことばかり期待していたこと、かっとなるたびに「父親を殺す」と言っていたが、でも自分は彼がそんなことをする人ではないと信じていたことなどを率直に話した。あらゆることがドミートリイにとって不利な状況にあった。結局彼は、嫌疑を晴らすための証拠を何一つ示すことができないまま、この日、父親殺しの容疑者として逮捕された。トリフォンをはじめ、あれほど友好的にドミートリイに接していた人々は、彼が犯罪者になったとたん、一部の人間をのぞき、みな手のひらを返したように彼に対して冷淡な態度をとった。人々の冷たい視線にさらされながら、ドミートリ―は荷馬車に乗せられ、拘置所へと連行されていった。

口は災いのもとでございます・・・。

(#15「カラマーゾフの兄弟(中)」(ドストエフスキー)finish reading 2018/7/26 )