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「美人物語」片岡義男

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文字通り、美人な女性ばかしが登場する物語(短編集)である。

この本に限らず、片岡義男の小説に出てくる女性は、基本的にみなパーフェクト級の美人である。彼女たちは容姿端麗なだけにとどまらず、一様に何かカタカナ的な職業を持った、いわゆるキャリアウーマン風の自立したカッコいい女性であり、やたら品の良い日本語を使いこなし、知的でウィットに富んだ会話を好み、お酒に強く、おまけにセクシーで恋愛にも奔放である。「美人」という感覚はとかく主観的なものだが、私の中では、郷ひろみの「素敵にシンデレラ・コンプレックス」の歌詞に歌われる女性が、まんまそのイメージという風に感じている。それこそ、”もうとびきりのいい女”なんである。対する男性陣も、人物描写から推測するに、若いのに時間的にも経済的にも余裕のある、ナゾの細マッチョイケメン風の総じていい男ばかりで、こんな男女が、およそ現実ではありえない都会のおとぎ話のような恋愛寸劇を繰り広げる物語が多いものだから、「こんな人たちはいねえよ」と正直うんざりすることも一度や二度ではなく、読んでいる自分が恥ずかしくなってくることすらあるのだが、なんだろう。ときにその毒っ気に自らあてられに行きたくなるというか、思い出した頃にふと読みたくなり、だけどひところ本屋の書棚を席巻していた赤い背ラベルの旧作群は、今や軒並み絶版でなかなか手に入らないものだから、古本屋で手頃な値段で並んでいるのを見つけたりするとついうれしくなって、まとめてごっそりオトナ買いしたりしては、また読み返してしまったりするのである。

片岡義男の作品にはいくつか傾向があって、今回読んだ「美人物語」のような、都市部を舞台に美男美女のとりとめもない人間模様を描く、こじゃれたアーバンポップ風もの、打って変わって「夏・海・空」といったイメージの、ナチュラルでクールな空気感が漂うサーフィンものやオートバイもの、そして、作者自身のルーツであるハワイを舞台に様々な物語が展開する、俗に言う「ハワイもの」と、まだまだ細かに分類すればキリがないが、ざっくり言えばだいたいこんな風に分かれている。私はもともと、サーフィンものやハワイものから入ったので、実はこの都会派恋愛エピソードみたいなのが、どれも似通った話に思えてどうにも退屈してしまい、なかなか読み進まないことも多いのだが、そんな私でもこの「美人物語」は予想外に楽しめた。個人的には、致命的に方向オンチな美人が登場する「私のような女」という物語と、片岡作品にしてはめずらしく身持ちの固い女性が登場すると思ったら、最後にプチどんでん返しが待っている「よりかかってドライ・ジン」という話が面白いと思った。

さて次は何を読もうかな。

(#7「美人物語」(片岡義男)finish reading: 2018/2/15)