消灯時間です

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今日のアドリブ 気ままに書きます

不穏な夏

予想以上に早く梅雨が明け、いよいよ今年もきらめく夏のはじまりかと思ったとたん、このところの天候がおかしい。梅雨明け早々台風が襲来し、我が家がある地域でも数日間突風にさらされる日が続いた。そんなことより心配なのが西日本を襲っている未曽有の大豪雨だ。思いもよらない不穏な夏の幕明けである。そんな嵐の日々のさなかに突如駆け巡ったオウム事件死刑囚7名の同時刑執行のニュースは、当時の一連の事件を知る世代の一人としてはなかなか衝撃的なものがあった。世の中を震撼させたあの地下鉄サリン事件からもう気づいたら23年・・・。サリン事件というと思い出すことがある。

二十数年前といえば、そのころ私は東京に住んでいたのだが、ある日、都内の某巨大ターミナル駅で電車に乗ろうと券売機で切符を買っていたときのこと。突然、のどに、きゅっと、なにか異物が入りこむような感覚をおぼえた。それまで感じたことのないような違和感だった。あれっ?と思ったとたん、今度は咳込んだ。それは決して深い咳ではなく、どちらかといえばコンコンと浅い咳だったのだが、なぜかその咳が全く止まらなくなってしまった。いったいどうしたものかと咳込みながら全くコントロールの効かない自分に驚いていたのだが、さらに驚くことが起こった。私の目の前を行き交うおびただしい数の人々が、みな一様に咳込みはじめたのだ。ちょうど会社帰りの人たちで混みあうような時間帯だったので、OL風の女性やスーツ姿の男性たちが咳込みながら足早に行き交っていたのを今でも覚えている。ちょっと異様な光景だった。何かそのへん一帯に目に見えないぐらい細かい粉塵でも舞っていたのか、はたまた空気が汚れていたのか、それにしてもニオイなどがしているわけでもなかったし、原因は全くわからない。まもなくして咳はおさまり、無事電車にも乗れたが、その後もしばらくのどのいがらっぽさがとれなかった。いつのことだったか正確には覚えていない。ただ、それからあまり遠くない時期にあの地下鉄サリン事件が起こったように記憶している。今でも、あの駅での出来事は何だったのだろうと思うが、当時サリン事件が起こったとき、犯行グループがそれ以前にも、大規模な駅などで薬品を噴霧する実験を繰り返していた、などという話も聞こえてきたので、もしや?とゾッとしたものだった。

私の場合は単なる偶然の出来事だったかもしれないが、実際に、危うくサリン事件の難を逃れたという方々から直に話を聞いたこともあった。いずれもいつもなら事件が起きた電車(車両まで同じ)に乗っていたはずなのに、出がけにストッキングがやぶれて家に戻った、その日に限って前日からの仕事の都合で車で出勤することになった、と何らかの不測の事態が起きて事件を免れた方々だった。特に、その日車出勤となり難を逃れたという方は、これまたその日に限って(事件の影響もあったのかもしれないが)道路がひどく混んでおり、結局仕事に遅刻して、その車というのかまた社用車だったので、その配車の責任者にこっぴどくしぼられたというオチつきだったが、それでもそれが新婚数ヶ月目の出来事だったというから、上司からの大目玉は実にお気の毒だったけれども、この九死に一生劇は、何かの身代わりだったというか、大難が小難ですんだものと思わずにはいられない。


先日、刑執行を報じるワイドショーを見ていたら、あの23年前の教祖の逮捕劇を振り返っている方がいた。あの日建物内で逮捕された教祖が外に連れ出されてくるのを、かなりの数の報道陣が今かとシャッターチャンスを狙って待ち受けていたらしい。それなのに突然その時だけの濃い霧が立ち込め、前方のいっさいの視界を遮られて、誰も車に乗り込むまでの教祖の姿を撮れた人はいなかったのだそうだ。言われてみれば、たしかに車に乗りこんでからの写真は見たことがあるが、外を連行されている写真は見たことがない。なにか特殊な力があったとは思いたくもないが、そんな話を聞いたら、このところの悪天候も何か関係があるのかなと少し胸がざわついた。

そういえば小学生の頃、もうかなり古い話だが、洞爺丸事故の難を奇跡的に逃れたというおばあちゃん先生もいた。その先生は遭難した洞爺丸にお母さんと乗るはずだったのに、お母さんが身に着けていくはずだった気に入りの帯留めがなぜかその日に限って見当たらず、船に遅れるからもう別の帯留めでもいいじゃありませんかと先生は言ったらしいのだが、穏やかなお母さんがめずらしくあの帯留めじゃなくてはだめだと強情を張り、結局帯留めを探している間に船に乗り遅れ、遭難を免れたらしい。今の皇太子のご成婚パレードの時も不思議だった。あのとき私は皇居前にパレードを見に行ったのだが、それまで降っていた雨が、パレードの直前になって突然晴れ上がった。良くも悪くも目に見えないことってやっぱりあるんだろうか。いつもはのほほんと迎えていた夏が今年は何か違う感じがする。そんな気になった今年の夏の幕明けだった。