消灯時間です

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今日のアドリブ 気ままに書きます

「鬼平犯科帳7」池波正太郎

鬼平犯科帳」もとりあえず7巻まで読み終えた。今回も涙あり、笑いあり、ほどよくお色気あり、の盤石の面白さだった。
収録話の一つである「掻堀のおけい」は、妖艶な年増の女賊の暗躍を描く話で、「鬼平」の名物メニューである「一本うどん」も登場する。親指ほどの太さがある長ーいうどんを、箸でちぎりながら、ネギやゴマ、柚子などの好みの薬味を添えた濃いめのつゆにつけて食べるらしい。冬はあたため、夏は井戸水で冷やして。この程度の実に簡潔な描写なのだが、なんだかものすごく美味しそうである。いかにも日本酒で一杯やりたくなるような感じだ。巻末の中島梓さん(ヒントでピントに出てた作家さんだ。懐かしいな)による解説でも触れられていたが、「鬼平犯科帳」をはじめ、池波作品に登場する人やモノは、その描写がかぎりなく最小限に抑えられている。そういえば、食べものにしても、どんな味がするかまではあまり描かれないし、女性も多く登場するけれども、容姿の詳細までが書かれていることはほとんどない。実際「掻堀の~」に登場する女賊のおけいは、女を武器に悪事をはたらく、まったくタチの悪い好色な女盗賊だが、その容姿に関しては、四十は超えてるらしい、よく見るとたいして美人ではない、肌が異常に柔らかい、と、実にシンプルな描写があるだけである。なのに、本から飛び出さんばかりに匂い立つようなキケンな色香がぷんぷん漂ってくる感じだし、顔に関する細かい描写は一切ないのに、その目鼻のかたちまでもが目に浮かんでくるようだ。一本うどんにしたってそう。味うんぬんにとどまらず、使っている食器や、食している店の内装までもが目に見えてきそうである。中島さん曰く、池波さんの文章は「行間に絵のある」文章、ということだが、まさにぴったりの表現だ。ここまでくればもう一種の魔術みたいな気がしてくる。
そういえば、ドラマの「鬼平犯科帳中村吉右衛門版)」では、女賊のおけいを三ツ矢歌子さんが、おけいの色香に骨抜きにされ、危うく畜生働きの片棒を担がされそうになる元盗賊の青年・鶴吉を沖田浩之さんが演じていた。お二人ともすでに鬼籍の人である。原作のおけいは、筋金入りの悪女といった感じだが、ドラマでは、悲しい過去を背負ったちょっと気の毒な女性に描かれていた。こうして原作とドラマの微妙な違いを楽しむのも面白味のひとつである。
次巻も楽しみだ。

(#2「鬼平犯科帳7」(池波正太郎)finish reading: 2017/12/22)