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「愛の年代記」塩野七生

数年前から、年間100冊を目指して読書しているのだが、なかなか思うようにいかない。たまたまタイミングの都合でそうなったのだが、毎年12月から読み始めて、次の年の11月までに読んだ冊数をカウントすることにしている。なので、ちょっとフライングなのだが、今月からが新シーズン(2018年)。昨シーズンは前半こそ快調だったものの、後半ものの見事に失速して、結局、100冊には程遠い58冊でフィニッシュだった。これまで読んだ本は、備忘録的に某SNSに記録していたのだが、思うところあって、今シーズンからは、こちらのブログに記録していくことにした。

というわけで、前置きが長くなってしまったが、
今期の1冊目は、塩野七生さんの「愛の年代記」である。

中世からルネサンス期の時代に生きたイタリアの女性たちの、さまざまな恋のかたちを綴った、9つの短編から成る作品集である。
いずれの物語も、史実や伝承話などを基に、作者が創作したものであるようだ。だが、どの話も時代の息吹が伝わってくるような、臨場感あふれるストーリーばかりで、読んでいるうちに、これが後世に書かれたフィクションであることを思わず忘れてしまうほどであった。しかも、元ネタがあるとはいえ、遠い昔の異国の男女の恋模様を、日本の作家がなんの違和感もなく描ききってしまっているというところが、これまたスゴいことである。あらためて、塩野七生という著述家の並外れた作家力というか、その唯一無二感に舌を巻かずにはいられない一冊だった。

一口に恋物語と言ってもいろいろだが、ここで語られる「恋」の多くは、「許されぬ恋」である。義理の息子と一線を超える貴婦人、多忙な夫の目を盗みながら、若い愛人との逢瀬にふける妻・・・。フランスやイタリアといえば、色恋には寛容だというイメージがあったが、どうやらそれは私の勝手な思い込みだったらしい。カトリックの厳格な宗教観に因るところもあるのだろうが、当時のイタリアでは、姦通は重罪であり、背いたものは手厳しく罰せられていたようだ。道ならぬ恋の代償は想像以上に大きい。背筋が凍るような残酷な結末を迎える話が、いくつかあった。
どの物語もドラマティックな展開で飽きないが、圧巻だったのが、聖職者同士の禁断の恋を描いた「女法王ジョヴァンナ」。若い修道士と修道女が恋に落ちた末に駆け落ち。男の提案で、女が男装して修道士に成りすまし、同じ僧院で表向き”同志”として共に暮らすことになる。その後、すったもんだがあるが、女は男装を貫き通し、ついにはカトリック最高峰のローマ法王に上り詰めるという、奇想天外な話であった。この女教皇が存在したかもしれないという話は、ヴァチカンのタブーとして有名な伝説らしく、恥ずかしながらこの本で初めて知ったのだが、俄然興味が沸いてしまった。関連の書籍も出ているようなので、今度読んでみようと思う。

思わずタブーな恋物語ばかりにフィーチャーしてしまったが、ロマンティックな恋愛も描かれる。異教徒の海賊に恋してしまう貴婦人を描いた「エメラルド色の海」がよかった。エメラルドの首飾りや、緑色の錦の織物など、登場する小道具は、そのディテールの表現にもこだわっていて、エキゾチックで素晴らしい。写真でしかお姿を拝見したことがないが、塩野さんはきっととびきりおしゃれなマダムに違いない。この「エメラルド色の海」は、ファンの間でも特に人気の高い一編のようだ。

今シーズンは一冊目から当たりが良く、幸先のいいスタートになった。
100冊は今回もちょっと難しいかもしれないが、2018年も自分のペースで、読書を楽しみたいと思う。

(#1「愛の年代記」(塩野七生)finish reading: 2017/12/14)